映画『小屋番 八ヶ岳に生きる 劇場版』
2026年製作/85分/日本
配給: Key Holder Pictures
監督・撮影:深澤慎也



 登山を始めて少し自信がついたら、次に向かう山は八ヶ岳だ。遠くからでも見つけると嬉しくなる特徴的な山容。初心者から上級者まで、どの季節でも楽しく、かつ安心感のある山々。その理由は、ここが「コヤガタケ」という異名がある位に山小屋が多いからだ。その山小屋を守る人達を、周囲の自然とともにドキュメンタリーとして描いたのがこの映画である。

「根石山荘」では、会社勤めに挫折し逃げるようにこの山小屋にやって来た青年の話。小屋から登る冬の天狗岳が美しい。白駒池のほとりにある「青苔荘」では苔の観察会が行われていた。ご主人は「八ヶ岳の自然は最高に美しいが、小屋がなければもっと美しい」と言い、小屋や登山客の存在が自然を脅かしてはならないという意識が感じられた。「青年小屋」の主人は70代だが山岳警備隊の隊長でもある。若い隊員に遭難者救助のためのクライミングを伝授する。最近の登山客はスマホばかりみて自然に向き合っていないと、時に厳しい言葉を投げかける。はじめてスタッフとして山小屋へあがる若い女性が向かうのは「蓼科山頂ヒュッテ」だ。不安で一杯だったが、二年後には笑顔で登山客を待っていた。厳しい冬の歩荷もこなす。ここは、食事や音楽コンサートなど細やかな気遣いにいつも感動させられる居心地のよい山小屋で、山頂からの日の出は何にも代え難い。優しいご夫婦が営む「双子池ヒュッテ」では、暗くなってからも到着しない登山客を心配して騒然としていた。雨も降り出した。山小屋の人達は警察からの要請がない限り独自に救助に向かうことはできない。二次遭難もありうるからだ。父親から小屋番を引き継いだ「赤岳鉱泉」の主人は、安全な登山のために自ら山小屋に診療所を開設した。医師はボランティアだという。行政の支援はないが山小屋の取り組みとして全国のロールモデルになりたいと抱負を語る。

八ヶ岳の美しい風景の中に、自分が歩いた道やこれから登りたい山をみつけて映像を楽しみながらも、この自然が実はかなり危機的であることも知る。鹿による食害である。果てしなく頭数を増やす鹿は、若芽や植物のみならず樹皮も齧りつくし、樹皮をはがれた木は、どんな大木でも枯れてしまう。専門家によると、このまま食害が続くと、いつかは八ヶ岳すべての森が無くなってしまうことも十分ありうるという。すでに木々を失った山の一部は土砂崩れを起こしていた。天敵であるオオカミの絶滅により増え続ける鹿。でもそのオオカミを絶滅させたのは人間で、すべて自分達にもどってくるわけだ。憩いをもとめ、あるいはそこで生まれ変わりをもとめ、山に登る。でもその自然の癒しも、私たちの自然への向き合い方によって、失われてしまうかもしれないことに改めて気づかされる。(藤原美樹)